第五回F即興大会 論題検討

みなさま第五回F即興大会へのご参加並びに、拝見誠にありがとうございました。
Fの石橋です。
 
今回は、こちらのブログをお借りしまして、Fとして即興大会に出した論題に関して検討と解説、自分が知る実際の大会での議論展開も交えて考察をしたいと思います。
F即興大会ではF内に論題検討委員を置き論題策定を行いますが、様々な制約の中で論題を検討しており、論題を選ぶのはこんなにも難しいのかという思いを強めました。正直、来年の論題も何から選ぼうか、相当に難儀するだろうと思います。
この度は、この検討過程を公開する事で、コメントや要望、議論が行われ、より良い議論が発見される事を願って、検討及び解説を僭越ながらさせて頂きます。
また、以下は検討委員の中の一人の意見であり、他の検討委員の意見の全てを反映したものではありませんので、ご了承下さい
  
  
第一試合
「日本は小中学校における牛乳及び乳飲料の提供を廃止すべきである。是か否か」
▼論題解説
現在は、学校給食法施行規則により「完全給食とは、給食内容がパン又は米飯(これらに準ずる小麦粉食品、米加工食品その他の食品を含む。)、ミルク及びおかずである給食をいう。」「補食給食とは、完全給食以外の給食で、給食内容がミルク及びおかず等である給食をいう。」
と、給食に必ずミルク(牛乳)を出すように規定されており、どの学校でも給食において牛乳が提供されることが原則となっている。
  
F内の論題検討委員としては、「第一試合には難易度の高い論題は避け、親しみやすい論題を」との考えから、この論題が選出されました。過去に別の大会等での実施もあったようですが、F内で検討の結果上がってきたものです。
 
ケースの想定は
「飲みたくない人が飲まなくて済む(食事の自由)」という主張に加えて
実害として、腹痛など発生の減少や給食における食べ合わせの悪さの解消、廃棄の減少
などが考えられます。
 
例えば、これはやや専門的な知識になりますが、そもそも日本人には乳糖不耐症という牛乳の乳糖を分解できない人が7割とも言われ、牛乳を飲むことでお腹を壊す人も多いと考えられます(実感値としても多いですよね)。特に学校給食は食育の場としても考えられ、飲みたくない、飲めないのに強制される場面も多いという主張はありえます。また、最終的には飲まない、飲ませることのできなかったものは、廃棄され、無駄になるという主張や、給食で頻繁に提供されるご飯には食べ合わせとして合わない事、またこれはDAのフロー上でのTAの議論になりますが、そのような提供の仕方が却って牛乳嫌いを加速させてしまう可能性もあるという議論もありえます。
 
これは判定室でも話題になっており、私達も詳細に検討できていなかった点ですが、牛乳の提供というのは戦後の栄養状態が悪い時代の始まりであり、現代の価値観で考えると(例えば、これだけ食の選択肢が増えた中で、これだけ食べわせの悪い食べ物が果たして生徒に好かれるのか、栄養状態が寧ろ良すぎる程の現代において一律に提供されるべきなのか、という議論など)、辻褄の合わない点が多々出てきており、これを通底においた議論を行えば、更に肯定側は分析が深まったかもしれません。
試合の様子でも肯定側は概ね論題策定時の意図通りの議論が多かったようです。
 
否定側への議論想定は
主に「栄養状態の悪化」という議論です。
ケースは先程のような議論展開であると、DAは一見勝つのが難しいと感じますが、学校における給食の意義というものを検討し直す事で勝ち目が見えてくると考えています。
特にイギリスなどでの事例ですが、給食の提供には食習慣の形成に繋がると言われており、過去の研究でも給食における食事内容の改善が、卒業後の食事内容の改善に繋がったと言われています(逆にアメリカは給食にフライドポテトが出るなどの事例が問題になっています)。また、近年海外の小学校や中学で朝食の提供が行われていますが、これは児童の成長という面もありますが、それ以上に朝食の摂取習慣の形成という目的も大きいでしょう。勿論、これを実証的に証明する事は試合中できませんが、一般に幼少期に食べ慣れているという事が、長期的に摂取量の増加に繋がるという主張は可能でしょう。
 
今回の論題範囲内は牛乳と乳飲料の学校提供の廃止ですので、イギリスの事例のように「健康な食事」という事ではありませんが、少なくとも幼少期の牛乳や乳飲料の摂取経験がかなり減り、長期的にも日本での摂取量が減っていく事になるという事は言えるのではないかと思います。また、牛乳を常用しない地域などもあることを考えれば、匂いのきつい牛乳を幼少期に学校で飲ませないという事は長期的な乳製品の摂取の減少に繋がる可能性も高いと考えられます。
 
栄養DAに対しては勿論、その上でも肯定側には反駁の余地があり、学校給食では必要栄養素がおおよそ定められている為、他の食事で代替される事が大きな反駁として想定されます。
代替の可能性に関しては給食のコストの制約の面から反論する事も可能ですが、上記の議論を踏まえれば、将来的にも骨粗しょう症の防止や筋肉量などにも繋がる、タンパク質やカルシウムの摂取経路として牛乳及び乳飲料が有用である可能性は高い(また他のカルシウム源、タンパク源である、豆腐や魚、肉などに比べ、乳飲料やヨーグルト等の乳製品や牛乳は摂取が簡易である為、時間のない社会人においては摂取機会として重要などの伸ばし方もあるかもしれません)という議論を回す事も可能だろうと検討しておりました。
 
ただ、試合中では、酪農農家の失業などをDAに挙げるチームも多かったようで、上記の代替手段の反駁の考慮の結果、栄養に関するDAの成立が困難と捉えたチームが多かったのかもしれません(勿論上記の議論構成でも反論に耐えられるとは限りませんので、よりbetterなのは両方を立ててしまうという事なのかもしれません。また、両方立てる事で、長期的な牛乳や乳飲料の摂取量の減少が酪農産業の衰退にますます繋がっていくという議論もありえたかも知れません)。
 
 
 
第二試合
「日本は地域猫制度を導入すべきである。是か否か」
▼論題解説
地域猫(ちいきねこ)とは、「野良猫が住みつく場所で、地域住民の認知と合意の上で共同管理されている猫の通称」である。地域猫活動は、1997年に神奈川県横浜市磯子区の住民が、野良猫を増やさないようにと共同で世話をするなどの運動を始めたことがきっかけで、全国的に広まった運動とされており、現在では様々な地域単位で地域猫の管理が行われている。最近では和歌山県が条例を制定し、地域猫として認定されれば、名札による管理、去勢・不妊手術への支援や、地域での餌やり場の設置や糞の処理に関する取決め等を行っている。
 
決勝まで含めて4試合を通じて論題範囲が被らないようにされていますが、動物系論題は選出が少なく、有望な論題があった場合には選ばれる、という事もあるかもしれません。また試合難易度としても3試合を通じて徐々に上げていくと言う事で、この論題の選出となりました。
ケースの想定は「野良猫が減る」という議論です。
 
これは論題解説でも示唆していた為、多くのチームが立てる事ができたようです。
無秩序な野良猫の増加による糞尿による被害や農作物への被害、疫病の蔓延などを論ずる事になると思います。
また、野良猫の被害は国民の経済活動の外部性だと考えれば、国としての介入は正当化されるという主張もあり得たでしょう。
一方でDAが難しいという声がこの論題は多かったようです。
確かにDAはやや難しかったかも知れないと自分も思ったのですが(中々良い論題がなく、申し訳ありません)、工夫をすれば立つと思っています。
 
最もオーソドックスな議論は「捨て猫が増える事によって却って地域の猫が増えてしまう」という議論だと思われます。
ただし、これは固有性アタックで難儀したチームも多かったのではないかと思います。つまり「飼っていた猫を捨てようと考える人はプラン前だろうが、プラン後だろうが捨てる。」という事です。ここは捨てる側モチベーションや猫が増えてしまう仕組みを丁寧に論じないとDAは勝てないと思います。
 
ここで私がこのDAにおいて検討している発生過程は以下です。
・捨てるモチベーションですが、「捨てるハードルが下がる」という事は言えると思います。つまり、現状では捨てる人の中には、猫のその後の生活を思って、家で飼ってやろうとか(まさに捨て猫を拾う心理はこれだと思いますが)そういう事を考えている人がいて、そのような面で、地域に存在する猫の今後の餌や寝床などの生活は保証されるのだから、安心して捨てる人が出てくるという事はあると思います。
・これに関連して、制度に対するフリーライダーが増えるでしょう。例えば、餌や予防接種などが自治体や地域の負担で行われる事を利用して、無責任に猫を購入・飼育する人が出るという事です(実際に起こっている地域もあるようです)。
・以上のような結果、却って猫が増えてしまい、本当は被害を受けることのなかった人が被害を受けるという議論です。今回は論題が、「日本は」となっておりますので、日本全体で導入する必要はない(合意の元に実行に移されるという文が論題解説にありましたが、全ての住民の合意を取ることは困難ですし、合意後に引っ越してくる人もかなり出てくるでしょう。合意形成がきちんと行われなければ、猫の被害で苦しむ人が出てきてしまう事は予想されます。)訳で、現状の方が良いという主張は可能だと思われます。
 
一方で多くのチームのDAで見られた「猫の管理コスト」という議論は、確かに確実に発生しますので、ここを予防接種や去勢手術の金額や具体例などを使って丁寧に立てるというのが良いと考えるチームも多かったようです。
 
しかしここで、もう一つ踏み込めたのではないかと考えるのは、去勢や予防接種など一匹頭大きなコストのかかる肯定側のメリットの中核となるような施策は、地域や自治体で負担する事や網羅的な実施が難しい場合があるため、その際は肯定側のメリットは発生せず、一方で実施が簡易な餌やりや、寝床の設置などばかりが行われ、地域での捨て猫増加や疫病の蔓延などDAは大きく発生すると回す作戦も考えられるでしょう(実際の地域猫の負の側面を表している議論はまさにこれでしょう)。
 
 
 
第三試合
日本は海外の危険地帯への渡航を禁止するべきである。是か非か
・違反者はパスポートの返納を行うものとする。
・自衛隊や外交官など国が派遣する日本人の渡航に関しては制限を設けないものとする。
本論題は原則としては認められている危険地帯への渡航を禁止するというものです。
▼論題解説
「危険地帯」の定義に関しては議論の中で設定していただいて構いませんが、参考として以下のような外務省が発表している危険情報があります。
外務省が発表する危険情報とは、海外(日本国外の国や地域)への渡航や滞在に際した安全に関する情報である。危険情報にはレベル1からレベル4が存在します。
「レベル4:退避勧告」では当該国や地域を統治する政府機能が著しく欠損している等で、治安当局が機能していない事から、武装勢力に外国人が狙われたり、内乱・武力衝突に巻き込まれる等で、邦人渡航者の生命に危害が及ぶ可能性が高い場合に、現地滞在の邦人は安全な地域へ避難するか日本へ帰国することを勧告しています。2016年現在、アフガニスタン、シリア全域、イランの一部地域など、20以上の地域に退避勧告が発令されています。
しかしながら、勧告にも関わらず、日本人が取材等の為に渡航を行っています。その中にはテロ組織等に拘束される人々も存在し、社会的事件となっています。2004年にイラクにおいて日本人3人が拘束された事件は、武装勢力が自衛隊のイラクからの撤退を求めたことで政治問題に発展したこともありました。最近では2015年1月にはイスラム国により湯川遥菜氏、後藤健二氏が殺害された動画がネット上にアップされ、イスラム国のパイロット解放が交渉された事も記憶に新しいでしょう。
 
 
第三試合は試合にも慣れてきた所で、固めの論題で且つ対立軸が明確に発生する論題という事で、今回の論題となりました。
ケースの議論展開としては危険地帯への渡航を行い、拉致された日本人が、日本政府への交渉に使われる、それを予防できるという話でしょう。イラクでの人質事件では自衛隊の撤退などが要求された事など国家の判断を変えかねない要求が行われるという話やそもそも人命を守る事ができるという話など、割りとシンプルに立てられるなるのかな、と思っています。
 
一方でDAの議論ですが、DAは立て方に工夫が必要だと考えています。
DAは主には「当該地でのジャーナリズムの衰退」というものが主だと考えられます。
しかし、これは単に立てるだけだと、日本へのメリットが不明確だったり、現地や海外のジャーナリズムで十分などの疑問を呈された時、ジャッジの評価が危うくなる可能性が高いでしょう。
 
そのためデメリットは、
・アメリカなどの影響を受けた独裁政権が多く、偏向報道や報道規制がなされている(アラブの春はまさにそういう事例だと思います)
・日本が自国民の為に全面的に禁止を行うという事は国際社会上許されないし、他の国も追随した場合、その国のニュースを正しく報道する人はだれもいなくなってしまう。日本がフリーライドで利益を得れば、他の国も利益を得ようとしてしまう。特にイスラムとキリスト教というような対立や大規模軍事行動がない日本は他国に比べ安全なのだから報道を行う必要性が高い。
・その国でのテロ組織の活動や政権の監視を怠れば、新たな脅威の芽を生むことになり、日本や世界の安全が脅かされる。
という議論があり得たと思っています。
 
また、実はマイナーな論点ですが重要な論点として、今回の論題は記者だけでなく、NPO法人やNGOの人も範囲として含んでいますので、そのような活動を行う人(例えば国境なき医師団とか)もいます。そのような視点でDAを立てるという事も考えられるでしょう。
 
特にDAサイドは世界にとってのメリットを主張することになる可能性が高いと思いますので、JDAの決勝のように、世界的な視点で見るべきだというスタンスの立て方もあると思いますし、日本の安全という面で見ても、この手の国際防衛の問題は一つの箇所で大規模な事件が勃発する事は、即ち日本を脅かす事になるという議論を行う事もできるかもしれません。
 
 
以上で予選3試合の論題の講評を終わります。
また決勝戦の講評は紙幅の関係で次回以降に行われる予定です。
今回の講評の目的は、論題に関しての作成意図や検討されうる議論内容を開示する事以上に、どのような論題が望ましいかみなさまに議論の土台を提供する事だと考えております。
これに対する議論だけでなく、意見、質問などもお待ちしております。
それでは今シーズンのディベートでもFを宜しくお願い致します。
 
石橋由基