F即興論題解説②

F即興大会論題解説②

続きです。

 

論題3

日本は国政選挙において、候補者クウォータ制のジェンダークォータを創設すべきである、是か非か

・候補者クウォータ制のジェンダークウォータとは政党が出す議員の候補者名簿の一定割合を女性が占めるようにすることを憲法において定めるとものとする 

これもガチ論題ですね。

過去にアカデの皆さんが取り組んだことのなかった論題だったかと思います。 

 

 しかし、実は男女の平等な参画の観点から、唱えられている政策です。ディベーターの中にはあまり詳しくご存じなかったかもしれないのですが、日本でも導入が検討されていて、すでに努力目標は定められています。

http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h23/zentai/pdf/h23_001.pdf

 

 試合結果は、NEGが優勢でしたが、現実世界での議論はかなり拮抗していると思います。

 ただ、論題はAFFの力量で大きく勝敗が変わるかと思います。

ジャッジに話を聞くと日本の現状がはっきりとわからないまま内因性を示すことができなかったAFFが多く、否定側の「男女平等」や「有鬚でない政治家が出る」というNEGがとりあえず出せそうな議論に負けてしまったパターンが多かったようです。

 しかし、肯定側が議論を立て切れば、そんな残念なケースにはなりません。

 

AFF

肯定側がなすべき事

    構造的に女性が政治にアクセスできないこと

肯定側がまず示す必要があるのは、女性が構造的に政治の世界にアクセスできない(しにくい)構造があることを示すことです。女性の候補者が出る枠を強制的に設定するわけですから、肯定側としては少なくとも現状の枠組みでは解決し得ない構造的な問題があることを示す必要があります。

 候補者のクウォータを設定するプランなので、被選挙権を持つ女性がなぜ政治の世界にアクセスできていないのかを分析する必要があります。一般的には、日本で選挙に出て当選するには「地盤=組織、看板=知名度、カバン=資金」が必要とされています(この現状も変わりつつありますが、依然としてこれらを持つ候補が有利なことには変わりありません)。ひとつづつ検討して行きましょう。

地盤…自前の団体もしくは親から受け継いだ後援会を持っている必要がありますが、後述するように、このような条件を満たす女性は少ないでしょう。

特にまだ男女差別が残っているころに就職した5060代以上の女性(この世代が一番政治家候補なんだよ! 若者の感覚で語っちゃダメだよ!)で、「女性だからという理由で」自前の後援会を作ることができたケースは少ないでしょうし、高齢の政治家の親からも後援会を受け継がせてもらえなかったでしょう。

看板…知名度です。一般的に言って、タレント候補でもない限り現職が有利です。

現在政治家をやっている男性の方が有利でしょう。

カバン…年齢が高くなればなるほど男性の方が所得が高く、政治家として出やすい企業の重役や公務員に多く就いていることを考えるとこれも男性が有利でしょう。特に専業主婦になっていれば、巨額のお金がかかる選挙に出馬なんて考えられないでしょう。

 また、社会に存在する通念(social norm)によって、女性/男性でそもそも政治家を目指すというキャリア選考に対する差が生じている可能性もあります。

端的に言えば、女性は小さいころから「政治家と言えば(中高齢の)男性しかTVで見ない」「女性が国家政治に関して話すときに、でしゃばったような行為だと見られる」「女性同士/家族間で政治家を目指すことに関して話すこともない、長男/一家の男エリートが政治家になるのが当たり前」というような環境でずっと過ごしている可能性もあります。このような環境で生まれ育てば、必然的に女性が政治家になるキャリアを考えることも少ないでしょう。

 

    女性が政治にアクセスできないことがなぜ深刻なのか

端的に言えば、ジェンダー差によって、男女で取り上げるイシューが違うからです。

国を代表する国会でとりあげられるイシューに差がでることは望ましくないといえるでしょう。

例えば、男性議員は経済や防衛など国全体を俯瞰したようなイシューを取り上げる傾向が強く、女性議員は社会保障や児童福祉、ジェンダー政策など生活に密着した分野の政策を取り上げる事が多いと言われます。これは、マクロで見て、女性と男性で全体的に違うキャリアを進んできたことにもよるでしょうし、女性であれば周囲の支援者が生活のことを気にしているから必然的に生活に関連するイシューを取り上げるという要因もあるでしょう。 

 なので、当然男性議員が多ければ多いほど、生活に関連したイシューは取り挙げられなくなるでしょう。

http://ponto.cs.kyoto-wu.ac.jp/bulletin/7/takeyasu.pdf

NEGの反論を意識したコンスト①「そうはいっても、女性だって選挙権を持っている有権者。その女性が選んだ男性政治家が生活に関連したイシューをあまりとりあげないということは、有権者は生活に関連した(女性候補者が取り挙げる)イシューに関心がないからじゃないの?だったら問題ないじゃん!」

 必ずしもそうとは言えないでしょう。男性候補者同士での選挙が多ければ、生活に密着したイシューが争点として触れられることは少ないでしょうから、有権者は必然的にイシューの存在に(自覚的に)気づいていないのかもしれません。このような、有権者が気付いていな可能性のあるイシューがある以上(しかも多そう)、女性が選んでいる男性政治家同士で争点になっていないからと言って、現状に問題がないとは言えないでしょう。政治家の重要な役割として、単に有権者の利害を反映させるだけでなく、自ら必要だと思われるイシューを掘り起こし、政策に反映させていくというものがあります(議員立法がこの典型です)。このような役割も政治家に期待されていることを踏まえれば、上記のような反論も返せるでしょう。

 

    表面的な男女平等ではなく、実質的な男女平等がなぜ重要なのか

NEG

 これは、日本のこれまでの話からつなげると良いでしょう。

表面的に男女平等な社会になっても、それは決して真の意味で「男女が平等に参画している」とは言えないでしょう。多様な意思を政治に反映させるという観点から、男女がある程度平等に政治の場に参画していることの方が望ましいでしょう。また一般論から言っても現状で構造的な問題があれば、それに合った政策を導入するのが筋でしょう。特に、女性の社会参画の分野では構造的な問題があれば常にそれを改善するという方向性で政策の改善が行われてきました。男女雇用機会均等法⇒男女共同参画基本法、介護育児休業法、DV防止法などなど。これらを踏まえれば、表面的な平等性⇒実質的な平等性を目指すという方向性が重要であるということができるでしょう。

 NEGから良く出る男性(政治家候補)の職業選択の自由は、枠が制限されるだけであって職業事態になることを禁じられたわけではないこと、現状で女性も(潜在的に)制約されていることを話せば、少なくともtieでしょう。

    補足:政治家の質の低下への対応

短期で言えば質が低下するのは間違いないので、長期的な視点をもって対抗しましょう。

政党のインセンティブ:質の低い人を選んだら、当然有権者に票を入れてもらえないので、より優秀な人を選ぶようにするでしょう

女性のインセンティブ:政治家として実績がなければ、競合する男性候補に負けてしまいますし、能力を示すことができなければ“クウォータがあるから政治家なんだ”という批判を受けることになるでしょう。そういった事態は避けたいところです。

 また、プラン後に女性政治家が増えれば、①で挙げた社会通念にも変化が起こりそうです。これまで政治家になることを考えたことのなかった優秀な女性が政治家を志すようになるかもしれません。

 

NEGの議論

    現状での改善

長期的には女性政治家は増えてきています。また、メディアに露出している女性閣僚もいます。長期手に見ていけば、政治と女性に関するノームが解消されていく可能性はあるでしょう。「地盤・看板・カバン」の問題も、女性が社会進出している世代が年を取るにつれ、小さくなっていく問題ということもできるでしょう。

    男性の政治家の職業選択

枠が制限される以上、必然的に政治家候補にすらなれなくなる男性も多く出てくるでしょう。これらの男性は自ら進んで政治家になりたいと考えているわけですから、政治家になる音を特に考えたこともない女性たちと比べたら、こちらの男性たちの方が守ってあげるべき対象なのかもしれません。

 

    優秀な政治家の不足

必然的に質が低下するでしょう。優秀でない女性候補者のいくらかが選挙で落とされるとしても、全体として低下する可能性はあるでしょう。政治家の重要な役割として⓪有権者の民意をくみ取ること①政策を審議し可否を決める事②政策を立案することがあることを考えると、コミュニケーション能力や政策知識、ディベート能力、交渉力など様々な面での優秀さが必要そうです。また、有権者は「投票に値しない候補者しかいない」と考えたら、その時点で投票をしなくなり、民意が反映されなくなる可能性も出てきます。

    バックラッシュ

今回の大会では出てきませんでしたが、女性の社会進出にとって逆に悪影響をもたらすというものです。③の議論と関連しますが、候補者として出てきた女性が優秀でなければ、既得権を得てきた男性層(しかも、この層の方が社会的な権力を持っていることが多い)からのバッシングが出てきそうです。また、そうでなくとも男性の職業選択が制限される以上、快く思わない男性も多いでしょう。このような男性側の反発から、社会全体の女性に対してのネガティブな印象が強まり、女性の社会進出/民意の反映にとって逆に悪影響であるというものです。政治の例ではありませんがアメリカでは、大学の医学部入学枠にマイノリティである黒人層を、クウォータを満たすために入学最低点を満たしていない場合でも入学を認めたところ、質の悪い黒人医者が出てきていしまい、結果として黒人に対するネガティブな印象を生んでしまったという事例があります。今回の論題にも応用できるかもしれません。

 

英語で参考になりそうな記事です。

 

http://plato.stanford.edu/entries/affirmative-action/#6

 

まとめると、AFF:コンスト命!NEG:現状での改善トレンドとイシュー選択が重要

といったところです。

今回の論題では肯定側の方にこれまでアカデではあまり使われることのなかったような分析を多く使う必要があったために、否定側の方が有利な結果になったのかもしれません。